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くぼの詰将棋

ぼく(くぼ)の詰将棋ブログです

相馬慎一作品展③ 解説

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37銀、 25玉、34銀生、同玉、94飛、25玉、
A 26銀、36玉、96飛、同と、37銀、25玉、43角、 34飛合、同角成、同玉、B 94飛、 84角合、C 同飛、25玉、」
「26銀、36玉、86飛、同と、37銀、25玉、43角、34飛合、同角成、同玉、84飛、74角合、D 同飛、25玉、」
「26銀、36玉、76飛、同と、37銀、25玉、43角、34飛合、同角成、同玉、74飛、64角合、E 同飛、25玉、」
「26銀、36玉、66飛、同と、37銀、25玉、43角、34飛合、同角成、同玉、64飛、54角合、F 同飛、25玉、」
26銀、36玉、56飛、同と、37銀、25玉、43角、34飛合、同角成、同玉、54飛、 25玉、
26銀、36玉、56飛、同銀成、37銀、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香、16歩、同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金、迄93手詰


A 43角、15玉、27桂、同成香、で16歩は打歩詰。16角成としても同玉、a 27金、同玉、28銀上、16玉、b 17香、25玉で26歩が打歩詰。
( a 96飛は25玉、以下逃れ
 b 96飛は36香で、17香、25玉、26歩、35玉、以下逃れ)
B 43龍、25玉、26飛、15玉、27桂、同成香、で16歩は打歩詰。16飛としても同玉、27金、同玉、28銀上、16玉、17香、25玉で26歩が打歩詰。
C 43龍、25玉、26銀、36玉、94飛、56銀成、37銀、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香、16歩、同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金、同角成で逃れ
D 74角合が逆王手なので43龍とできない
E 43龍、25玉、26銀、36玉、76飛、56歩、37銀、同角成で逃れ
F 43龍、23玉、32歩成、43角で逃れ

45玉は46銀、36玉、63角、46玉、54銀生、36玉、47龍、同玉、74角成、56銀、48金、46玉、47銀、以下
15玉は27桂、同成香、16角成、同玉、27金、同玉、28銀上、16玉、17香、25玉、26歩、34玉、43龍、迄
34歩合は同角成、同玉、43龍、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香、16歩、同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金、迄
25玉は26銀、36玉、96飛、56歩、37銀、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香、16歩、同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金、迄
84歩合は96が取られない代わりに歩を渡すことになるので無効。上記と同様に詰む。
44角合は同龍、以下


初手はこの一手だが、対する45玉の変化はかなり厄介。
2手削った方が良いという声もあったが、ここは好みの分かれるところだろう。
45玉は46銀以下何とか詰むので作意は25玉。

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ここで34角とすると、以下15玉、27桂、同成香となって打歩詰。
しかしもしここで角が成れれば16角成~27金として手が続きそうだ。

そこで34銀~94飛として43地点を空ける手が好手……なのだが、実はこの一連の手順にはもう一つ、本作のメインの成立に関わる重大な意味がある。

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94飛に対して25玉とかわした局面。
ここで43角と打ってみよう。
以下15玉、27桂、同成香、16角成、同玉、27金、同玉、28銀上、16玉、17香、25玉。

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なんと打歩詰の局面になってしまった。もし上記手順中17香に代えて17歩としても15玉とよろけられて、16香、25玉ではむしろ状況は悪化するだけだ。
しかしもし94飛がいなければどうだろう。34への利きが消え、26歩、34玉、43竜で簡単に詰むではないか。
つまりこの局面で、94飛は邪魔駒となっているのである。

そこで戻ってP図から26銀、36玉、96飛とするのが邪魔な飛車を消去する唯一の手段。
先の手順で16角成、同玉まで決めてから、あるいはさらに27金、同玉、28銀上、16玉を決めてからでは紛れAa,bのように逃れるようになっている。流石に巧く作られているものだ。
翻って、A図から34銀~94飛としたのは34への利きを銀から飛にすり替えておき、後に96飛でそれを消すための布石でもあったことになる。

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以下、同とに37銀、25玉と戻して43角。
ここで15玉と逃げると、先の手順を経てX図にあたる局面で今度は26歩が打てる(飛を消去した効果)ために詰む。
しかし34への飛車の利きが消えたので43角に合駒が利くようになる。さて合駒は何か。

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普通は歩合とするところだろう。攻方は何合でも取るしかない。
しかし34歩合、同角成、同玉、43龍、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香(下図)に、16歩以下特に難しいところなく詰んでしまう。

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もうお馴染みだろうが、ここで26歩が飛だったら、という発想が鍵。
上図の26歩を飛に置き換えた局面で、16歩は打歩詰になってしまう。
16飛も同玉、27金、同玉、28銀上、16玉、17香、25玉、で26歩は打歩詰。先の16角成の紛れでもそうだったが、34に攻方の利きがあるときは、25を封鎖しながら攻めないと最後に25玉で打歩詰になってしまうのである。

すなわち26歩が26飛ならこの局面は不詰なのだ。
それでは26歩を26飛に置き換える玉方の妙防は……?

soma03-r.jpg

Q図から34歩合ではなく34飛合とするのが不利合駒の妙手。
以下同角成、同玉、43龍、25玉、26飛、15玉、27桂、同成香とすると次図。

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Y図の26歩が見事26飛に変わっている!
34飛合として歩ではなく飛を渡し敢えて16に攻方の利きを作ることで、玉方は16歩を打歩詰にせしめたのである。
予習のとおりこれは逃れであるから、今度は攻方が工夫しなければならない。

不利合駒には不利交換が定跡だ。貰った持駒の飛車をどうにかして歩に換えることができれば、不利合駒の妙防を空振りに終わらせることができる。
そこでR図の34飛合に34同角成、同玉の局面で、96とに着目して94飛と打つのが好手。

soma03-s.jpg

以下25玉、26銀、36玉、96飛、46歩、37銀、25玉と進めば26に飛ではなく歩が打てるわけだ。
以下15玉、27桂、同成香となった局面は、細かい違いはあるがY図と同様に16歩で詰んでいる。

玉方は26歩を打たせてはならないので、攻方に歩を与えるわけにはいかないのだ。
だから94飛に96とを取らせまいと84歩合の中合を放ってみるのは意味がない。

そこで……。

soma03-t.jpg

94飛に84角合が妙手。
同飛、25玉に43角と王手すると、15玉、27桂、同成香で16歩は打歩詰だ。

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ここで43角に代えて26歩の配置であれば16歩が打てて詰むことはもうご承知のはず。
すなわち84角合は歩ではなく角を渡すことで、敢えて(そしてあくまで)16に攻方の利きを作ろうという不利合駒なのである。
ただし、84同飛ではなくあくまで歩を取ろうとする43龍に対して、以下25玉、26銀、36玉、96飛、56銀成、37銀、47玉、48金、同角成で逃れる意味もあるので、純粋に不利合駒となっていないのは惜しい。

ところで、84角合に同飛、25玉となった局面(次図)には見覚えがないだろうか。

soma03-p2.jpg

なんとP図とそっくりである。飛との位置が少し違っているだけだ。
何がどうなっているのかはまだよくわからないかもしれないが、どうやら繰り返し趣向の予感がする。
これまでと同様に進めてみることにしよう。

まずは26銀、36玉、86飛、同と、37銀、25玉、として84飛を消去する。
これは34への利きを消すことで、43角に対して15玉と逃げる手を、27桂、同成香、16角成、27金、同玉、28銀上、16玉、17香、25玉、26歩、34玉、43龍で詰むようにするためであった。34への利きが残っていると手順中26歩が打てない。

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そうしておいて43角。
15玉は27桂~16角成以下詰む(上で飛車を消去した効果)ので、玉方は34飛合の不利合駒で受ける。

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34同角成、同玉に84飛。これは86とに狙いをつけた手だ。
対して玉方は歩はなく、あくまで16に利く駒を渡そうと74角合の不利合駒。
(逆王手になっているので今度も43龍とはできない。以降も紛れC~Fに見るように、角合に対して43龍とはできない。)

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74同飛、25玉で次のP''図。

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またP図の類似局面に戻ってきた。
そして先ほどとの違いは飛車とと金が一路ずつ右に寄っていること。
もうお気づきだろうか。つまりこの一連の手順を繰り返し、飛車とをどんどん玉に近づけていくのが本作の趣向なのである。


おさらいしておこう。

soma03-basis.jpg

基本図(P図にあたる)から
①43角は15玉以下進んで25玉に26歩が打歩詰。
②そこで26銀、36玉、96飛、同と、37銀、25玉と飛を消去してから43角。15玉には①と同様に進んで26歩が打歩詰にならない(34に逃げられる)のが飛消去の効果。
③対して34飛合と不利合駒。これは34同角成、同玉、43龍、25玉、26飛、15玉、27桂、同成香、16歩を打歩詰にする意味。(26飛が26歩ならば16歩が打てる。)
④そこで飛でなく歩を手に入れるため、34同角成、同玉に94飛として96とを取りに行く。
⑤対して84角合と不利合駒。これは84同飛、25玉、43角、15玉、27桂、同成香、16歩を打歩詰にする意味。(43角が26歩ならば16歩が打てる。)
⑥84同飛、25玉で基本図の類似局面に回帰。


soma03-basis2.jpg

これが1サイクル。
基本図と基本図'を見比べると、サイクル手順を経て飛との位置だけが変わっている。
サイクル手順を繰り返せば、これらが順次右へと移動していくことになるのだ。
すなわち飛は94→84→74→64→…へ、は85→96→86→76→…へ、それぞれ移動していく。

そしてを56まで移動させ、①~③を経て④で54飛と打った局面(次図)がサイクルの終着点。

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ここで44角合は同龍があるので利かない。
ついに単に25玉と逃げるほかなくなるのである。
いよいよ収束だ。

B図以下25玉、26銀、36玉に56飛と待望の歩を奪い、同銀成に37銀、25玉。
飛歩の不利交換が漸く実現したので、26に飛ではなく歩が打てる。
26歩、15玉、27桂、同成香、そして……

16歩
この歩を巡って延々と続いた攻防もこれにてお終いである。

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以下は同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金、迄。
総手数93手、ほとんどが趣向手順という純度の高い趣向作であった。



さて一通り手順の解説も済んだところで、作者の言葉を引用しよう。

相馬真一(作者)「去年の個展3の副産物。近藤さんの「テレポーテーション」をイメージして作ってみました。不利合の繰り返し趣向は般若一族や金成さんが手掛けていますが、本作は「ロジックを楽しむ」という点においてまずは及第点といえるのではないでしょうか。」

「テレポーテーション」とは次の近藤真一氏の作品。
(詰将棋パラダイス 1983年5月号 院10 上半期大学院半期賞受賞)



「飛打、飛合~飛捨、同成桂」を繰り返して成桂を連れてくる趣向で、恐らくこの飛合の部分を不利合駒でやろうというのがそもそもの発想。
尚、「テレポーテーション」における飛合は5筋に利かせる意味だ。

しかし、それだけでは正直面白いとは思えなかっただろう。
本作が面白いのは、角合を挟んで「角打、飛合~飛打、角合~飛捨、同と」という構造になっており、しかもその角合までもが飛合と同意味(16に利きを生じさせる)の不利合駒になっているからである。
青字で書いたまとめ部分を読んでもらうだけでも、本作の趣向手順を成り立たせるロジックが重層的でありながら、しかしきっちりと一本の線の上に描かれていることがわかるはずだ。

本作は単に「テレポーテーション」に不利合を絡め、それを複雑化しただけの作品ではない。
作者も言うように、見るべきはその手順の「形式」よりも、むしろ手順を成り立たせる「論理」にある。
趣向作であってもやっぱりこれは相馬慎一の作品なのだ。

しかしそれにしても、去年の個展③から「テレポーテーション」へと結びつける、その柔軟さには感服するばかり。
構想中編などという枠にとらわれない発想が、新たな構想を生み出す原動力になっているのかもしれない。

相馬氏にはその発想力で新たな構想作を生み出してくれることを期待する一方で、これを皮切りに長編の舞台でも凄い作品を見せてほしいと思わずにはいられない。
案外2000手超えをはじめに達成するのは相馬慎一かもしれませんよ。



divD
「3九金迄93手。
四段に飛があるときに43角を打つと15玉27桂同杏16角成同玉27金同玉28銀上16玉17香25玉で26歩が打歩詰となる。飛が無いときは26歩が打てるので合駒だが、歩合だと同角同玉43龍25玉26歩15玉16歩同玉27金15玉16香まで。飛合で同様に進めると上記16歩が打てず、打開しても後に26歩が打歩詰。攻方は歩が欲しいのでと金を狙うが玉方は角中合で抵抗。以下繰り返しで最後はと金を手に入れて収束。
飛合,角合とも25,16へ利かす不利合駒ですね。完璧です。」


明晰なミニ解説ありがとうございます。私いらないんじゃ……(笑)
それはさておき、まさしく完璧な手順構成です。収束は好みの分かれるところかもしれませんが、これも一つの纏め方でしょう。


YANAGI
「不利合駒と趣向手順の融合はまさに空想の世界。20年後の詰将棋を見ているよう。次元の違いを感じる。
仕組みは実に単純で分かりやすい。不利合駒の繰り返しは1手1手にたしかな手ごたえを残していく。趣向手順が終わり待望の26歩が実現し、27桂と跳ねたあたりが本作のピーク。一歩入手を巡る攻防の余韻を味わう。
1つだけケチを。2手目45玉の変化は軽いストレス。頭2手はカットした方が落ち着く。」


私も相馬作品からは時代を先駆けている印象を受けます。例えば相馬作品展①なんかは、まだ時代がグループ不利合を正当に評価するに至っていない中で、それをさらに発展させてしまおうというものですし。
しかもそれでいて構想部分が煩雑にならないんですよね。仕組みはあえて単純でわかりやすく作ることで、テーマが明快に伝わるように工夫しているのかもしれません。

でも2手目は確かに煩雑で、私も省く案に賛成。少なくとも解答者としては嬉しくない変化かと。
作者としては入れたくなるかもしれないので強くは推せませんけど。


冬眠蛙
「締切すぎてしまいました。39金まで93手ですね。飛・角のどちらかが持駒の場合だけ、単純に攻めると打歩詰になる構図が秀逸です。序奏や収束がシンプルで好感のもてる仕上がり。こういう作品はぜひ詰将棋を始めた人に見てほしいですね。」


これも同感です。飛・角のどちらかが持駒のときに16歩が打歩詰になる設定、それに26歩の打歩詰の条件設定も含めて、このあたりの構図設定と論理の組み立てがスマートだと思います。
でも詰将棋を始めたばかりの人にはちょっと消化しきれないかも(笑)


三輪勝昭
「序盤10手は逆算ですよね。
主題が生きるベストの逆算だけど2手目45玉の変化は作品の本質に関係ない面倒くさいだけの変化。
僕はこう言うのは嫌いなので初手は省きますね。
このコメントこそ作品の本質に関係ないから省くべきかな(笑)。

25玉の形は持駒歩か香だと15玉、27桂、同成香、16歩で簡単に詰んでしまう。
43角や26飛なら16歩が打歩で、玉方は飛か角しか渡せない舞台装置が巧い。
もらった飛を使って96とを狙って取りに行くのは見当がつくし、角の中合も予想される。
普通こんな感じの手順を成立させるには飛合を守備力の強さで発生させるのだけど、相手に渡して役に立たない駒として発生させているので凄く簡明と言うか合理的と言うかスッキリしていて気持ちが良い。
もっとも創作法としては手順を成立させるために考えた不利合でなく、不利合の面白い展開と考えた手順なんだろうけど。
とにかく面白い手順を考えたものです。
飛を引いてと金に取らせないと手順が繰り返して行かないから訳も分からず指してしまうが、どうしてこうなるのだろう。
43角、15玉、27桂、同成香、16角成、同玉、27金、同玉、28銀、16玉、17香、25玉で飛がいないと26歩が打歩にならないのか。
もっとも14手目の変化として解く順番では先に読んでいるけど、作者観点として巧く創っていると感心します。

角の中合の位置は飛を引かれた時に、と金で取れるよう隣が当然。
だけど待てよ!詰方は歩が欲しいのだから、タダの角に食い付かず、43龍~26銀、36玉に歩を取るとどうなるの?
84角は96飛、56銀成、37銀、47玉、48金を取るため。
74角は逆王手。
64角は37に利く。
54角は43龍に23玉、32歩成、43角。
これらは仕方なく創った逃れ順だろうけどよく考えていますね。

収束は29金で28金、16玉、17香迄がベストと思うけど、出来ないならこれでベストと思う。
だけど僕は短編作家なので42龍の大駒が遊んでしまうのが気になる。
これは長編では気にしなくて良いのではと思っているんだけど。

この作品は最近の相馬さんの作品で一番好き。
正直言って最近の若島さんの作品も同様なんだけど面白いとは思っていない。
論理的に不思議なだけで感覚的な面白さがないからです。
僕は捨て駒の手の感触や、ある形にするために一旦逆効果の手をするような因果関係を好むのでこの作品は僕の好みにピッタリです。」


やはり解答者にとってこの2手目の変化は嫌味だった様子。
でも私が解いた際は無心で読み飛ばしました(笑)

「テレポーテーション」を見る限り、飛合は守備力の強さで発生させた方が合理的で簡単そうです。でも角合を挟むとなるとどうでしょうね。やってみないことにはちょっとわかりません。
まあしかし仰るとおり、作者としては不利合から展開していってるはずで、飛合が形式上発生することよりも、なぜ発生するのかの論理に重きが置かれているはずです。

26歩の打歩詰を設定して、飛消去の意味づけをその打開にもってきたのは私も巧いと思いました。
でも角合の瞬間の43龍を逃れるための仕組みは私はちょっと苦しめに感じました。

収束へのツッコミは予想通り(笑)
個人的にも気になるところではありました。多分消そうとすると無理やりになってしまうのでこれがベストなんだろうとは思いますが。

他の作品が面白いか、ということはさておき、本作は楽しんでもらえたようで何よりです。


高坂研
「趣向手順は「極光」第四十五番あるいは「テレポーテーション」の発展形だが、サイクル毎に不利合駒が入っているのが作者らしいところ。ただ、この手順は双玉でなくても成立するのでは…と不思議に思って調べてみたら、角中合にはどのサイクル中にもある43龍以下の紛れをぎりぎりで躱す意味もあるようだ。ということは、角中合の意味付けはpureでないということになる。
 もっとも、この趣向自体まだ充分希少性があるし、意味付けのダブりがそんなに気になる訳ではないんだけど、もしここがスッキリ処理できていれば、配置ももう少し整理できていたのかなとは思う。」


流石鋭い。
仰るとおりで、角合は純粋な不利合駒にはなっていません。三輪さんのコメントにもあるように(手順解説では紛れC~F
>84角は96飛、56銀成、37銀、47玉、48金を取るため。 
>74角は逆王手。
>64角は37に利く。
>54角は43龍に23玉、32歩成、43角。
という意味がそれぞれ複合してしまっています。(実は私は解いた際には気づかず、解説稿を書いていてはじめて気づいたのですが。)
これ自体も弱点と思いますが、それによって配置面に制限を受けてしまった感もありますね。
このあたりを改善できれば、さらに収束における42龍の取り残され感を払拭することもできたかもしれず、残念なところです。

この順は48銀で詰んでしまうので、正確には96飛、56銀成、37銀、25玉、26歩、15玉、27桂、同成香、16歩、同玉、27金、同玉、28銀上、18玉、19香、29玉、39金を同角成で逃れるようにする意味のようです。
divDさん、ご指摘ありがとうございます。


名無し名人
「これは明快で面白い。
上田吉一氏の成銀を移動させる名作を思い出しました。不利合駒2回で表現しているところが相馬流ですね。
こういうテイストの作品をもっと発表してほしいです。
42龍が残るのが不満ですが、作者のことだから気にしていないのでしょうね。」


高坂さんもコメントしていましたが、ご明察のとおり、上田吉一氏の名作は本作と関連しているはずです。
本作の元になった「テレポーテーション」、(恐らく)その元になったのが上田氏の作品です。 
「テレポーテーション」は上田氏作の飛合版という感じですね。(尤も1サイクルに二度飛合が入るあたり、ちゃんと新作へと昇華されていると思います。)
不利合2回で表現しているところに相馬氏らしさがありますよね。

こういうテイストの作品をもっと見たい、というのは同じ気持ちですが、一方で普段の相馬作品ももっと見たいので複雑です。両方作ってください(笑)

42龍への不満はもっと来るかと思っていましたが、思いのほか少なくて、言及していたのは三輪さんと名無しさんだけでした。長編だとこんなもんなのかも?でも私は気になります。私、気になります!(突然のえるたそ

さらにその「テレポーテーション」に触発されて上田さんが作ったのが、『極光21』第97番(詳しくは補足記事に)のようです。
高坂さんから教えて頂きました。ありがとうございます。


咲花
「不利合駒と有名な趣向手順との融合。
構想に関しては「新しい」という感じは個人的にはしませんでしたが、飛合角合をあっさり表現してるあたりは作図力の差を実感しました。
この趣向を始めてみた人には、意味わからんのでは?少なくとも易しくはないってw」


新しさは確かにあまりないのですが、面白い手順だと感じられればそれが作者の本意でしょう。
易しくはなかったみたいで反省しています。私は「不利合テレポーテーション」だと聞かされてから解いたので易しく感じただけかも。


谷口 翔太
「解き終わって、先ずは名作誕生と思う。
16歩打が打歩詰になるか否かの攻防戦。
遠打の飛を捌いて打歩を避けると、応えて角の中合と飛合が待っている。
この巧妙な一連の趣向に感心。
ブログで幾つかの相馬作品を解いて思うこと。
そろそろ、ブログで発表された作品から看寿賞受賞作品が出る、出ても良いだろうな、です。」


趣向手順1ブロックが巧妙なんですよね。構想型趣向作というのでしょうか。

そろそろブログで発表された作品から看寿賞作品が出てもおかしくないという気持ちは年々高まっています。
今の状況を見るとその第一号は相馬氏になるような気がしますが、果たして……?

今年の看寿賞選考から目が離せません!


正解者(敬称略、順不同)
divD、YANAGI、冬眠蛙、三輪勝昭、高坂研、名無し名人、咲花、谷口翔太


今回も多数の解答、ありがとうございました。
次回があるかは未定ですが、ありましたらまた解答をよろしくお願いします。

[ 2014/11/01 00:00 ] 相馬慎一作品展 | TB(0) | CM(0)

相馬慎一作品展③ 解説補足

高坂さんから言及のあった『極光21』第97番を紹介しておきます。


『極光21』第97番(近代将棋 1982.9) 上田吉一



途中、例えば7手目などに香を龍から離して37などから打つと、以下同龍、33歩、42玉、52歩成、同玉、59飛に57桂、53歩、61玉、69飛、同桂成、で逃れ。
これは桂が6筋に利いてくるためだが、例えば26手目に57桂合としても69への利きは有効でないという点に注意。
つまり、1間以上離して桂合をされないために常に香は龍に接して打つ必要があるのである。

新味のある限定打を中心とした趣向に、鮮やかすぎる収束と美しい配置。
思わずため息が出てしまう名作である。塚田賞(長編)受賞。
[ 2014/10/31 11:59 ] 相馬慎一作品展 | TB(0) | CM(0)

相馬慎一作品展③

お待たせしました、第三弾。

今回は趣向作ということで、比較的気軽に取り組んでもらえるはずです。
でも解けばちゃんと相馬さんらしさを感じられる、そんな作品です。
是非解いてみて下さい。

soma03.jpg

手数は大学院級(51手~)。でも中編を解くより断然易しいですよ!
解答・感想はコメント欄に書き込んでいただくか、メールでikz26.tsumeshogi <> gmail.com迄( <> のところに@を入れて送って下さい)
締切は10/10(金)と致します。


[ 2014/09/06 20:41 ] 相馬慎一作品展 | TB(0) | CM(3)

相馬慎一作品展② 解説

soma02-0.jpg


A 82角生、 73香合、B 同角右生、 64香合、C 同角成、26玉、27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉、17馬、同玉、28角生、 16玉、17歩、27玉、73角成、17玉、28馬、 16玉、27馬、25玉、34龍、迄


A 82角成は作意15手目28角生ができない
B 同角左成、48玉、84馬、49玉、85馬、39玉、以下逃れ
B 同角右成、26玉、71角成、53香、同馬、同桂、27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉、にて打歩詰
C 同角生、26玉、27香、同玉、28香、17玉、以下逃れ

48玉、84角成(93角成でも詰む)、49玉、85馬、39玉、28角成、迄
73歩合、同角右成、26玉、71角成、53香(歩)、同馬、同桂、27歩、16玉、17香(歩)、同玉、28馬、16玉、17歩、25玉、34龍、迄
26玉、71角成、53香、同馬、同桂、27香、16玉、17香、同玉、28角生、16玉、17歩、27玉、73角成、17玉、28馬、16玉、27馬、25玉、34龍、迄2手早い。
27玉、73角成、16玉、17歩、同玉、28馬で作意に合流。尾岐れ。
26玉、38馬、17玉、27馬、迄駒余り。


初手は82角の一手。成か生かは選択の余地があるが、必要があれば後で裏返すことにしてとりあえず成っておこう。
対して27玉には28馬~17馬、48玉には84角成でも93馬でも簡単。
そこで73歩合とするのが玉方の妙防だ。

soma02-x.jpg

これを82の馬で取ると48玉に対して84角成や93馬がない。(84馬では変化48玉の最終手28角成ができない。)
なので攻方は同角と62の角で取るしかない。ここも成生選択の余地があるが、上と同様にまずは成っておく。
以下26玉に71馬と合駒請求するのが好手で、此方の馬はもう19~91ラインにいても使い道がないので、何か持駒と換えようというわけだ。
対して普通に53歩合とするとY図。

soma02-y.jpg

ここから同馬、同桂で予定通り馬を持駒の歩と換え、27歩と打てば何のことはない詰み形である。
27歩、16玉、17歩、同玉、28馬、16玉、17歩、25玉、34龍、迄。
しかしこの作者の作品にしてこれが作意ということはありえないはず。一体何を間違えたのだろうか。

実は上記手順中、17歩が本作の鍵。
上では17歩と打てたから詰んだわけで、もしこれが打歩詰であったならばこの順は逃れだ!

soma02-theme.jpg

テーマ図は17歩と打つ直前の局面。ここで
攻方は17歩と打てれば詰み、玉方は17歩を打歩詰にして打たせなければ逃れ
これが本作の設定なのである。

それでは17歩を打歩詰にするために玉方はどう工夫するのだろうか。
テーマ図で17歩が打歩詰であるためには、25に攻方の利きがあればよい。
そのためには……もうお気づきだろうか。そう、27の歩が香車であればよいのだ。
もしこの27の歩が香車であれば、テーマ図からの17歩は紛れもなく打歩詰となり、設定に従ってこの局面は逃れということになるわけである。

27の歩を香に変える方法はこの作者の作品ではもうお馴染みだろう。不利合駒だ。
そこでY図で53香合としたのが次のY'図

soma02-y2.jpg

ところがここから53同馬、同桂、27香、16玉、17歩、同玉、28馬、16玉、と進み見事に打歩詰……とはいかないのが本作の奥深いところ。
上記手順で攻方はわざわざ27に香を打ってやる必要はない。27香のところ27歩とすれば以下、16玉、17香、同玉、28馬、16玉、17歩、25玉、34龍で不利合駒の甲斐もなく詰んでしまうのだ。
かといって飛合に変えてみても意味がないどころか詰みすぎるし……。暫く堂々巡りに陥った解者もいたかもしれない。

この謎を解くには、さらに局面を遡らなければならない。
実はX図では73香合!と不利合駒をしておくのが玉方唯一の妙防手!

soma02-x2.jpg

すぐには意味がわからないだろうが、とにかく手順を進めてみよう。
73香合以下、同角成、26玉、71馬に再度53香合!と不利合駒。

soma02-y3.jpg

ここから53同馬、同桂とすると……

soma02-p.jpg

持駒が香香なので攻方は27香と打たざるを得ない!
27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉、で17歩は打歩詰だ。
すなわちX'図とY''図でいずれも香を不利合駒したのは、攻方に香しか渡さないことで27に香を打つ以外の選択肢を与えない意味だったのである!


この「1枚でも安い駒を渡すと攻方に都合のいいタイミングでそれを使われてしまうので、複数回の合駒を全て不利合駒で受けて安い駒を渡さないようにする」というのは私の知る限り若島正氏の詰パラ大学院発表作(詰将棋パラダイス 2014.1 院1)が初出。が記憶に新しい。(修正について詳しくは追記で)



6~8手目に連続で飛合をしているのがそれ。
もし共に歩合であれば9手目から65同銀、55玉、56歩、45玉、46歩、同と、同銀、36玉、37歩、以下。

wakashimalogic.jpg

このとき56の歩が飛であれば37歩は打歩詰なのだが、例えば8手目だけ飛合をしても65同銀、55玉、56歩、45玉、46飛、と敢えて飛の方を捨てることで上と全く同一の局面に合流してしまう。
56に飛を打たせるためには攻方に飛以外を渡してはならないのだ。
そのため、6~8手目はいずれも飛合をするのが最善になっているのである。

この仕組みは打歩詰誘致に実際には関わってこない駒(本作でいう17香、若島作でいう46飛)も不利合駒しておく必要があるというのがこれまでと全く違う点であり、一部では勝手に若島理論と呼んだりしている。今後なんて呼ぼう……。
最近現れたばかりでまだ馴染みがない人が多いのではないかと思い紹介させていただいた次第。


さて、話を本作に戻そう。
P図となって攻方は打歩詰を逃れられない。ようやく攻方が工夫する番が回ってきたようだ。
攻方はここで初めて73の馬を裏返す、いや表返すことになる。
X'図の73香合に対して、攻方は同角としなければならなかった!

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以下26玉、71馬、53香、同馬、同桂、27香、16玉、17香、同玉、28角生!、16玉、17歩、となれば後は簡単な詰み。
73同角生~28角生としたことで27への攻方の利きが消え、17歩が打歩詰ではなくなっているのだ。
連続不利香合の妙防を角生で切り返して詰み。なるほど虚々実々の応酬であった。
めでたしめでたし……

とはいかない!本作はここからが佳境である。
秘術を尽くした連続不利香合は、角生で切り返されてしまった。
さらにその上をいくような秘手とは――

soma02-z.jpg

Q図から64香合!とするのが玉方最後の秘手。
あくまで同角生と生にこだわれば、26玉、27香に同玉として逃れ。同角生としたことで28角成とできなくなっているのだ。
では同角成だと?26玉でR図。

soma02-r.jpg

ここで71馬とするのは意味がない。53合を同馬と取れない(同飛とされて逆王手)からだ。
しかし64で合駒を得ているのだからもう合駒を稼ぐ必要はない。むしろ82に馬が残って攻方が得したようにも思えるのだが……。
R図以下、27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉。
前にもみた打歩詰の局面になってしまった。64香合に同角成としたことで28角生とできなくなっているのである。

すなわちZ図の64香合は角に成生の態度決定を強制し、28角成か28角生のいずれかの選択肢を奪う打診不利中合だったのだ!
尚、64香合には93飛車の横利きを通して71馬から53合を稼げなくする意味もないとは言えないが、合駒を稼がせないために64で合駒を渡すのでは意味がないはず。その上82馬が残ってしまうのでは玉方にとってむしろ損なはずで、であれば64香合とするのはひとえに角の成生を打診するためのものだと言える。

ところでこの打診不利中合という構想は、他でもない本作の作者が昨年末に81puzzlerで発表した作品が一号局。
それでは本作はそこからどういう発展を遂げているのだろうか。

soma02-x2.jpg

X'図は73香合とした局面。ここで同角成は26玉以下打歩詰で逃れるのであった。
そして実は作者の主張によれば、成って取ると詰まないということはこれも打診合なのだ。
かなり広義に打診合を定義すれば、成って取ると詰まないような合駒を打診合と言うこともできる……のだろうか。
26玉と逃げるための合駒に見えることもあって、正直疑問符がつくところではあるが……。
このあたりは解答者の方の意見も聞いてみたいところ。

ともかく、作者が言うにはこの73香合は打診不利合。
そして直後の64香合は先ほど述べたように紛れもなく打診不利合。
これらを併せて「打診不利連合」というのが本作の構想なのだ!


打診不利連合によって攻方は再び打歩詰の局面へと導かれてしまう。
初手から、82角生、73香合!、同角生、64香合!、同角成、26玉、27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉。

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ここで17歩は打歩詰。
とはいえここで諦めるのはありえない。今こそ攻方最後の切り札を使おう。
82馬を表返すのだ!
82の馬が角ならばS図から17馬、同玉、28角生!と28馬を角にすり替え、16玉に17歩と打てる。
つまりここに至ってはじめて、初手は82角生と指しておかなければならなかったことが判明するのである!

soma02-00.jpg

82角生!、73香合!、同角右生!、64香合!、同角成、26玉、27香、16玉、17香、同玉、28馬、16玉、17馬、同玉、28角生、16玉、17歩、27玉、73角成、17玉、28馬、16玉、27馬、25玉、34龍、迄。
最後は少し非限定がありはっきりしない印象を与えたかもしれないが、設定となる打歩詰の舞台をそのまま用いた予定調和的な収束で個人的にはむしろ好印象。勿論非限定についてはない方が望ましいが、最善の纏めと言えるだろう。
総手数25手。非常に高密度な応酬で、手数を数えてその短さに驚いた人もいたのではないだろうか。


さて、本作は「連続不利打診合」という超ウルトラCを、非常にコンパクトな構図で実現している。
しかしそれだけに、73香合を打診合であると主張できる十分な論拠がないことが惜しまれる。これだけ構図的な余力の残しているのだから、この作者ならばそこに誰もが納得できるだけの論拠を与えることができたはずだ。
正直に言って、私は73香合は打診合ではないと思う。なぜなら73香合は成生の態度決定を迫れていないから(同角生と態度を保留できてしまっているから)だ。(反論はむしろ歓迎する。)

しかしそれでも私が本作を名作だと言うのは、作者としては不本意かもしれないが、本作を「打診不利合」を表現した作品として見たとき、それが非常に美しく表現されているからである。
「打診不利合」の作品として見たとき、本作は一号局とは比べものにならない美しさを誇っている。

まずは64香合の打診合としての意味がより見た目に顕在化していること。ここは感覚論だが、一号局の84銀合は角をダブらせる意味に見えてしまった。対して本作の64香合は打診合に見えたのである。

次に収束。上でも言ったように、打歩詰の舞台をそのまま使っての収束は非限定こそあれ簡潔だ。構想が終わったらすぐに終わるというのは構想作の収束として理想的である。

そして何より構図。これについては作者の言葉を引用しよう。

相馬慎一(作者)「打診不利連合。去年の打診不利合作の時点ではグループ不利合に気付いていませんでしたが、今回、その概念(香+馬)を右下の部分で使うことでエレガントな表現になっていると思います。」

実は一号局では、打診合の意味づけとなる打歩詰と、不利合の意味づけとなる打歩詰は別地点で設定されていた。(前者が35、後者が36。詳しくは81puzzlerで。)
しかし本作では、27香+28馬が揃ってはじめて打歩詰になるというグループ不利合を応用した発想によって、不利合と打診合の意味づけとなる打歩詰を統一したのである。
このことは不利合と打診合とをより有機的に結びつけ、「打診不利合」を「打診+不利合」から「打診×不利合」へと進化させたと言っても過言ではない。
作者がエレガントな表現と言うのも納得だ。

「打診不利合」なんていうそもそも矛盾した構想を、これだけエレガントに表現されれば参ったと言う他ない。本作は間違いなく名作である。
しかし前述のとおり「打診不利連合」という構想の表現としては不満の残るところ。
そういうわけで、次は「打診不利連合」をエレガントに表現した名作を期待したい。作者ならばきっと実現してくれると信じて……。



冬眠蛙
「34龍まで25手で合ってますでしょうか。
香先香歩を予防する玉方香先香歩と打診不利合ですね。構図がシンプルでわかりやすく、構想がストレートに伝わるので、確かに前作よりも良いと思います。」


流石正解です。
香先香歩を予防、というよりは歩先香歩の予防になるでしょうか。まあ形式がどうあれ攻方にとっての不利感を感じて頂けたのであれば成功と言うことでしょう。
構想がストレートに伝わって前作より良いというのは同感。これぞ「打診不利合」でしょう。
ただ、作者の意図した構想については伝わらなかったみたい?


凡骨生
「34龍まで25手。

打診不利連合になるのでしょうか。
こんな夢のような構想が成立しているとは脱帽です。」

こちらも正解!
構想も大正解で、お見事です。
作者の意図がきっちり伝わっている人もいるということは、73香合がどう見えるかには個人差があるのかもしれません。


奥鳥羽生
「34龍迄25手。
作者が意識的にそう創ったと考えるのだが、まさに原理図といってもいいような、
表面上はこうも簡単に創るか!という印象の、スッキリ・クッキリの図。
以前に他ブログでもコメントしたことだが、氏の復帰後の一連の作品群について、
適切な表現ではないだろうが、「構想の条件作」という一面をひしひしと感じる。
(高難度条件を設定した構想の実現を自身に課す(ご本人は好きなだけw)の意)
①主題クッキリ
連続角生に対する連続打診不利中合。
両角・成生選択可能なので73香合は打診?、というところは私にはわからないが、
香香の連続不利中合が、明確に表現されている。
②構成スッキリ
二度の中合位置を限定し、本手順・変化・紛れすべてを含有した簡潔な全体配置、
解くことが煩わしくない親切設計、余分なものは何もない。」


うーん。私が言いたいことをこの文字数で全部言われてしまった感じ(笑)
唯一「構想の条件作」云々のあたりが私には理解できていないのですが、これは私の感受性の問題でしょう。
それにしてもスッキリ・クッキリとできていてこう作るものかと思わされます。
特に感心させられたのは「打診不利連合」を作ろうとしたときにその不利連合の部分の意味づけとして若島理論をあてはめたことで、恐らくこれが最適解。
相馬氏には構想を実現する上でどうするのが最善かというのが常に見えているのかもしれません。


ひっぽ
「82角生と成生を保留する→73角右生と成生を保留する→64香の打診で成を強要→馬を捨てて角生(初手の保留の効果)、という構成。
保留が入れ子になっていること、合駒、特に64の打診合駒が香合であること、この2点が目を引く。
打診不利合の実装法としては、双玉の利用で前作よりは格段にエレガント。
そのしわ寄せというべきか、収束の尾岐れは残念。このスキームでないとテーマが実装できなかったのならやむを得ないか。 」


打診不利合の実装法として前作より格段にエレガント、まさしくそう思います。
保留の入れ子は特に82角生の潜伏が長いので個人的には強烈な印象を受けました。なんとなく生にしてしまうところではあるのですが、それでも。
収束はやっぱり気になる人には気になりますよね。私も時期が変われば見方が変わるかもしれません。でも多分作者は全然気にしていないんじゃないかなあと思います。いつものことですが(笑)


divD
「3四龍迄25手。
角の配置が不成を暗示しているがとりあえず成で考えてみる。…73香合と53香合で打歩詰。82角不成から同角右成でも同じ。
では82角成から同角不成だと64香…これは同角成しかない。そして26香では同じなので71馬だと…53香合同馬同飛で逆王手。
やはり二枚とも不成が正解のようだ。
焦点の不利合駒と打診の不利合駒の連続不利中合。素晴らしいです。」


解説のような読みで、作家としては理想的な解答者さん。
でも73香合は焦点の合駒に見えたようなので、そこだけ作者的には不満?(笑)
ところで失礼ながら一つだけ揚げ足を取らせて下さい。73香、同角生、64香、同角成~71馬に53香合は……5枚目です><


彼方
「34龍迄25手。
6手目の局面がポイントで、持駒が香歩、歩歩だと簡単に詰むが香香だと17歩が打歩詰になってしまう。そこで合駒は73香合~64香合。グループ不利合を連合で実現するとは。
64中合は角の成生決定と93飛の利きを通す意味があるわけですね。(あってます?)
締切り過ぎてすみません。」


半ば固有名詞化した「グループ不利合」とは原理的に異なるのですが、これも形式的にはグループ不利合と呼べそうですよね。ただ混乱するので若島さんには別の名前を用意して欲しいかも。
64香合の意味はその通りなのですが、実は93飛の利きを通す意味は本質的ではない、ということを解説に書いたので読んでみて下さい。


三輪勝昭
「☆82角生、73香合、同角右生、64香合、同角成~34龍迄25手詰。

初手は82角しかないようで親切設計。親切設計とは詰方の手が限られていると言う意味ですが、これは僕の場合は褒め言葉です(笑)。
成不成の二択ですが、ここは不成に決定出来ます。
ここで非限定は作家としてあり得ないとしたら、馬に限定するには次に作意か変化で縦か横に動かなくてはいけない。
この可能性は想定出来ない形。玉に取られないようにするためもあるが、それはもっとあり得ない。
論理的にも馬である必要がなければ角にして成不成の選択権を残しておいた方が得。
屁理屈だけど正論。
ケチを付けるために言っているのではなく、これで何故だろうとの楽しみが出来、倒叙物推理小説のような楽しみがある。

2手目は73合しかなく、見た瞬間は73飛の移動合かと思ったら飛金銀は簡単に詰む。
角桂合は売り切れ(僕には親切設計)だから香か歩合に決まる。
これで犯人が分かりました。
推理小説でよくあるが、小説の面白さを考えたら犯人はこれしかないと言うのがあったりする。
その犯人は被害者が死んで一番損をする。変に犯人当より、その謎が解き明かされるのが楽しい推理小説もある。
香合だと犯人は分かってもその謎が解き明かされるのが楽しみになって来た。

しかし、読みは歩合から。
同角右生、26玉に71角から合駒をもらう。
以下27歩、16玉、17歩、同玉、28角成、16玉で一つの謎が解明。27香なら打歩詰。
17に打つ駒は関係なく27が問題。歩を渡してしまうと27歩なので香香と渡さなくてはならない。

73香合~71角、53香合では角生の必要がない。第一この程度で満足する作者ではない。
さらに考え64香合、同角成として飛を53に利かせて53桂移動合の逃れがありそう。
27同玉に28角成が出来ないと詰まないので成を強要されるので、馬を捨て28生角にする。

これで謎は解明された。後は証拠探しだ。

28角生以降は非限定続出でしょうか?
僕は収束最重視作家ですが、収束手順はそんなに重視してません。
一番重要視しているのは詰上がりの駒の働きです。
かなり不満の残る最終形です。
33成桂・43龍は23と・34と(成桂)にしたい。
と思って柿木将棋にかけると桂は売り切れにしても「詰みませんでした」と言って来る。
詰むと思うけど何か逃れる順を見落としているのだろうか?
その図は詰むとしても歩合で一旦25玉に逃げる手が変同でしょうね。
初めはそうしたかったけど33と43龍は苦心の配置かも知れない。

☆まとめると不利合駒は連続合で、このくらいが一番僕は好きです。
そして多種より同一駒の連続の方が好きです。
大変楽しめました。
だけど一つ不満が。
64合は飛を53に利かせて桂を合駒に参加させようとする手です。
しかし、打診中合の意味もある。
出来れば打診中合で創って欲しかった。
持駒1枚では詰まない。3枚になると不利合駒が成立しない。
うーん、至難かな。

もしかしたら次の作品で考えているのかも知れない。
又は3重不利合を考えてたりして。
僕の私見だけど1重増やすごとに倍難しくなるのではない。何乗倍に難しくなって行く。

以前、このサイトで玉方飛の横移動の回数を増やそうとしたバカな人がいたけど、作家とはそう言う性があり4重不利中合を創って欲しい気がしたりもします。
他人事なので好き勝手言えます(笑)。」


私も同じような解き方をしましたが、64香合は打診合の意味で発見したので、64香合の意味づけに対する不満はありませんでした。
案外64合の方も打診合に見える人と見えない人がいるのかもしれません。ただ、これ以上理想的な表現はありえないかも……。
33成桂・43龍を23と・34成桂にしても詰んでいるような気がします(うちの柿木将棋も詰まないと答えるのですが……)が、仰るとおり香香合が歩歩合でも27歩に25玉とよろけて同手数になってしまうので43龍になっているのだと思われます。

真に純粋な打診不利合駒は完全に矛盾してしまうので、その矛盾を解消するこの±ゼロの仕組みは個人的には凄いと思わされるところ。しかし仰る気持ちもわかるので複雑なところです。

私は回数を増やすことに余り本質的な意味はないと思いますが、とはいえ増やせるのなら増やしたい。結局、何回にするのが理想的な表現になるか、というところに行き着きます。バランスを損ねてまで回数を増やすのは好みではありません。
ただ一方で、趣向作などでは回数が重要な要素として捉えられているようにも思いますし、回数を増やすことにどの程度の価値を見出すかは人それぞれとしか言えないところでしょうね。


高坂研
「82角生、73香、同角右生、64香、同角成、26玉、27香、16玉、17香、
同玉、28馬、16玉、17馬、同玉、28角生、27玉、73角成、16玉、
17歩、同玉、28馬、16玉、27馬、25玉、34龍迄25手詰。

 4手目64香が「不利合駒+打診中合」の一手。玉方香香合によって打歩詰に
誘導するのは作者が最近多用している筋なのですぐ分かったが、4手目単に
26玉として71角成、53香、同馬とするより、64香として成を強制する方が2手
伸びるのは何とも不思議だ。
 ただ、収束はもう少しどうにかならなかったのか、こういう露骨な方法でしか
桂合を処理できなかったのか、或いは16手目の非限定など、完成度という点
では若干の疑問も残る。(恐らく作者は気にしていないだろうが)今まで彼が
保っていた良質のバランス感覚をかなぐり捨ててまで「まず構想ありき」という
創作姿勢に固執する作者に対し諸手を挙げて賛成しきれない私は、やはり
古い詰キストなのだろうか?


確かに64香と2手で香を渡すほうが、71馬から4手で香を貰うよりも長くなるのはパラドキシカルですね。この視点には気づきませんでした。鋭いですね。
完成度に対する厳しい見方は、氏が言えばこそ納得せざるをえません。構想作というのは幾分か無理をして手順を構成しているわけですが、とすると絶対的に理想的な詰将棋は構想作ではないのかもしれませんね。もっとも新構想が出尽くすまでは非常に魅力的な分野だと思いますし、相対的に理想的な詰将棋なら沢山あると思うからこそ構想作を作るわけですが。

相馬さんの作り方は昔と比べてかなり変わりましたよね。若島さんも同様に変わっていて、何か関係があるのかなとか思ったりしますが、真相は如何に。
それはそれとして、私は今の創作姿勢も好きです。何より創作意欲が刺激されますし。
でも諸手を挙げて賛成し切れないというのは多分みんななんじゃないでしょうか(笑)


YANAGI
「天空と地上を斜めに結ぶ角のラインが美しい。別々の詰将棋が同時進行しているような、不思議な感覚。構想部分の評価については、よく分からないのでパスします。」


別々の詰将棋が同時進行ですか……言われてみればそんな気もします。
なんとも独特の捉え方で、非常にらしい評ですね。
YANAGIさんの短評は個人的に凄く好きです。


他にも一人の方から解答を頂いたのですが、管理人にのみ公開の設定になっていたので短評を掲載していいのかわからず、とりあえず伏せてあります。もし掲載可ということであれば連絡頂ければ幸いです。


正解者(敬称略、順不同)
三輪勝昭、冬眠蛙、凡骨生、奥鳥羽生、ひっぽ、divD、高坂研、彼方、YANAGI、Pathfinder


非常に多数の解答ありがとうございました。
次回も予定しておりますのでよろしくお願いします。




[ 2014/08/30 21:00 ] 相馬慎一作品展 | TB(0) | CM(10)

相馬慎一作品展②

第二弾!
相馬慎一氏からまたまた素晴らしい作品を頂きましたので出題します。
私見では今までの傑作群と比べても1、2を争うほどの名作。
たくさんの解答をお待ちしております。

soma02.jpg

手数は短大級(19~29手)
コメント欄に最終手と手数、感想を書いていただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。

追記:締切は8/20迄
書き落としてしまい申し訳ありません。

[ 2014/07/19 07:10 ] 相馬慎一作品展 | TB(0) | CM(11)
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Author:くぼ
とある詰将棋作家

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